Any time, any where.
●イラストの勉強をしている人にアドバイス。大事な話なので、補足してきちんと書きます。
 僕がプロになれた一番の理由は、今にして思えば、僕が絵がものすごく下手だった事、才能が全くなかった事が良かったんじゃないかと思います。プロになるためのごく初期の段階での話ですが、自分が『何故できるのか?』という気づきなしに何でもできてしまう人、要するに才能がある人、センスがいい人、というのは、結局、自分の内面と深く対話する必要性が薄いために、自分が何故それを描くのか、何故その色を選ぶのか?といった自分自身への問いかけの重要性に気づきづらいのではないかと思います。
 19歳の時に初めて絵を描き始めた頃、僕はとにかくもう、目も当てられないくらい色の感覚が悪く、形のとり方も癖っぽく、1年予備校に通って、予備校の全国コンクールでビリから8番目、というくらい下手でした。
 そのために、僕は自分が何故その色を選んでしまうのか、自分の中の何がその色を選ばせてしまうのか、と言った事を延々と考えなければなりませんでした。結果として、人間というのは(というか僕は)無意識に、自分が傷つかなくてすむように目の前の現実をねじ曲げて、自分が見たいようにしか物を見ないのだ、という事に気づきました。自分の無意識は、宿主である自分自身が傷つかずにすむように、常に自分自身を騙しています。
 例えば何時間もかけて描いた石膏デッサンの形が狂っていた場合、その事実を直視してしまうと自分が傷つくので、無意識はそれを回避するために『本当は形は狂っていないよ』という嘘をつくりだして自分を騙します。他人の絵の間違いには簡単に気づくのに、自分の絵のおかしい部分にはなかなか気づく事ができないのはそのためです。

 絵を描くというのは、常に自分の無意識をモニタして、無意識が自分に都合のいい嘘をつくり、ストレスを回避しようとする瞬間を捉え、その無意識をねじ伏せて、自分と自分が描いたものの正しい姿を直視する事です。自分の意識の中にある無数のOFFになっているスイッチを、コツコツと一つずつONに変えていく事です。

 僕は非常に欠陥の多い人間ですが、どうやら絵においては、欠陥の多い人間ほど成長の余地があるのではないか、と思います。というかまあ、思う事にしています。
 絵のうまさは、その人の心のスイッチがどれだけたくさんONになっているかで決まりますが、絵のよさは、その人が生まれつきOFFになっていたスイッチを、長い戦いの中でどれだけたくさんONにできたかで決まるからです。